15年前のSONYに学ぶ

「さよなら!僕らのソニー」を読んだ。近年におけるソニー
の変遷がよくわかる。


その中でも特に興味を引いたのが出井氏の取組みだ。1995
年に社長に就任し、2005年まで務めた。目前に迫っていた
デジタルネットワーク時代およびその社会でソニーはどう
対応すべきかという「解」を持たなかった大賀氏が、「解
」を持つ存在として白羽の矢を立てたのが出井氏だった。


出井氏は、「デジタル・ドリーム・キッズ」と「リ・ジェ
ネレーション」という2つのメッセージで方向性を示した
。つまり、「アナログからデジタルへ」突き進むと宣言し
た。


前任の大賀氏は、ソニーはまずエレクトロニクス・メーカ
ーという立ち位置を明確した上で、「ハードとソフトは、
ソニーグループのビジネスの両輪」という経営観を示した



出井氏は、デジタル化に伴い、ITとAVの融合はネット
ワーク時代でソニーが生き残る必須条件と考えた。また、
製品の売り切りからの脱却、製品を売った後から始まるビ
ジネス(定期収入)の取組みを説いていった。警備会社の
セコムを例に、「セコムのように売ったらそれで終わりで
はなく、モノを売ってから始まる商売を始めなければ生き
残れません。」と説いた。
ハードの販売だけで高い利益を確保すること、あるいは売
上を伸ばすのは難しいと考え、新たな収益源をネットワー
ク・ビジネスに求めるべきだと考えていた。ハード単体で
の売り切りのビジネスではなく売った後からも続くビジネ
ス・モデルの開発などに挑戦するものの、いずれも成功し
たとは言いがたい。音楽配信や動画配信では十分な利益が
得られる段階までには到らなかった。(ソニー銀行やソニ
ー損保などの金融ビジネスはそこから始まったが)
結局、出井氏が社長・会長を勤めた11年間に「売ってか
ら始まるビジネス」は実現しなかった。


また、創業メンバーではない、自分の求心力は「数字」と
言い、そのめに、ソニー本社をグループ企業を管轄する持
株会社と事業会社に分けようとした。従来の本社を「アク
ティブ・インベスター(長期的視点から投資先の成功を求
める投資家)」として、事業ユニットの業績の目標設定や
その評価などを行うものの、オペレーションには直接関与
しないものとした。


まさに、某社が今やっていることっていうのは、これと同
じことではないだろうか。「売り切りから売って始まるビ
ジネスへの転換」、「組織再編」。某社は、ソニーに10
年以上遅れて、しかも、成功しなかった同じことをやろう
としている。これって、コンサル会社の叩き台とかをベー
スにしているからこうなるのではないだろうか。ソニー
ら十分学べるのではないだろうか。同じことをやるのであ
れば、「ソニーがやったこととコンセプトは同じだが、こ
こがこうだからソニーは失敗した、うちはここが違うので
成功する」ということを言えなければ経営者ではないだろ
う。


ソニーの「売ってから始まるビジネス」は成功しなかった
し、おそらく某社も成功しないと思う。それは、どちらに
も「顧客視点」がないからだ。
そもそも、「継続的に儲ける」とか「三度儲かる仕組み」
とか言うが、それは企業側のやりたいことではなく、お客
さんのやりたいことではない。そこが根本の問題だ。成功
するとしたら、「継続的に儲ける仕組み」でもなんでも、
それがお客さんにとって必然性がなければ受け入れられる
わけがない。大切なのはアイデアが100あることではな
く、必然性が1つでもあることだ。


そこがアップル社との根本的な差だ。スティーブ・ジョブ
スは、会社とは、「株主でも、社員のものでもなく、顧客
のもだ」と言ったという。
iPodにしても、「音楽を大量に持ち歩きたい」というニー
ズから出発した。そのためには、PCで全部完結し、そこ
でネット経由で買えればなお便利、ということからiTunes
が生まれた。


そこに立ち返らない限り、いくら企業側が「二度儲ける、
三度儲ける」といったところで、それが実現することはな
いと思う。もう1点、そういうビジネスが本当にできてい
る会社っていうのは、私たちは、「売ってから始まるビジ
ネスモデルです」とか「二度、三度儲けるビジネスモデル
で成功しています」なんて絶対言わないと思う...。