軒屋を貸して母屋を取られる

Hさんが出張で来られて、M社を訪問してきた。目的はとある商
品の調達先として、M社を活用できないか、どうかという話をす
るためだ。
M社は日本の某メーカーのある製品のOEMの供給元にもなって
いるということだった。まさか日本の店で並んでいるあの商品が
made in India になっているとは思いもしなかった。


新しい技術であったとしても、コモディティになる時間の早さを
痛感した。たしかに、装置産業であるから、製造設備さえ整えれ
ばビジネスができるという面はある。ただ、それにしても、それ
だけの設備投資ができて、売ることができる、というベースを備
えていなければできない。そういえば、彼らの事業コンセプトの
一つとして、「Mass Manufacturing」による規模の経済というも
のもあげていた。


工場も実際に見せてもらったが、2001年にできたばかりとい
うこともあり、非常にきれいだった。工場内は、KAIZEN、5Sの文
字が並び、日本式製造方式に則っているということがよくわかっ
た。こうやって新興国にキャッチアップされていくんだ、という
ことも伝わってきた。経営幹部の何人かは実際に日本で働いた経
験もある。


そして商談となったが、彼らは自分たちの品質のよさをアピール
してきた。


そして、商談となった。こちら側(日本企業)がボリュームゾー
ンを狙うから価格を下げたい、と言って必死になっている一方で
、彼らは自分たちの品質のよさをアピールしてきた。彼らは、「
街には、中国製の安い製品が溢れているが、それらはすぐに壊れ
る。最初はインド人も使うかもしれないが、いずれそういう商品
は淘汰されて、我々の多少高くても品質のよい製品を選ぶように
なっていくんだ。」と言ってきた。日本企業が、インド人に品質
の高さの利点をアピールされる、というブラックジョークのよう
な状態だ。


さらに、こちらは、価格を下げるために、品質基準の見直しがで
きないか、とも聞いた。彼らは、「それは難しい...」と答えて
きた。これも同じブラックジョークだ。


でも、こうしたブラックジョークのような状態がおきているのが
現状なんだと思う。


さて、では、日本企業がこの企業にOEM供給を頼んだとしよう
。こちらは要求を出すが、彼らは一生懸命にそれに応える。応え
ようと製造ラインを改善し、品質を上げようとする。日本企業は
ブランドを与えるだけになる。気がついたら、彼らは、全て自社
でできるようになっている。M社は、自社ブランドでの製品販売
も行っている。気付いたら、インド国内では彼らのブランド力の
方があがっている、ということがおきるのではないか。


今の時点では、まだまだ日本企業のプレゼンスは高い。日本ブラ
ンドでインドのどこの会社にも出入りすることができる。でも、
その未来に待っているものは...。20年後、この会社と自社の
立場はきっと逆転していると思う。そうならないために、何が
できるだろうか。