ライフネットの岩瀬大輔氏

グロービス主催でライフネット生命保険岩瀬大輔氏の
講演があったので行ってきた。今までにグロービスの講
演は何回か行っているが、とにかくその中でもプレゼン
のレベルは群を抜いて高かったと思う。
(たぶん、レベルは違っても若いという点で聴衆の目線
に立ちやすいということもあるとは思うが。)
とりあえず、メモをとりながらも同時に書いた気付い
たことを書いておく。


(1) 比較の提示
とにかく何かを説明しようとするときに、それがどの
ぐらいのものなのかを分かりやすい一般的なものを比較
対象として説明している。言うのは簡単だが、「へぇ、
そういうもんなんだ」と肌感覚で分からせる能力は並大
抵ではない。
・生保業界を説明するのに銀行と証券を並べる。
・生保の市場規模45兆円の大きさを示すために、小売業
、IT産業の市場規模を示す。
・国内の生保の仕組みを示すために他国と比較する。
・保険商品を並べて金額を比較する。
・生保の難しさを示すために自動車保険はわかりやすい
よね、というのキーワードを出す。
・生保業界の機能不全を示すために過去モデルと今モデ
ルを比較する。
・生保会社の取り分を感覚的な数値で多すぎると示す。


(2) 手に入るデータ
生保業界を説明するために市場規模などいくつかデータ
などを示していたが、どれも普通に新聞の記事などから
手に入る一般的な情報だけだった。もちろんストーリー
の説明のためのツールに過ぎないのだが、特別なマーケ
ティング調査データを用いなくても、普通の情報を並べ
るだけでこれだけ面白く物語が描けるという点がすごい
と思った。


(3) アマゾンと同じ
「他者がネットで生命保険販売を始めたときの差別化は
?」という質問に対して、僕自身もすぐに仮説として頭
に思い浮かんだのはアマゾンだった。ネットで本を売る
ことだって誰でもできると考える。そして、現にバーン
ズアンドノーブルが満を持して参入してきた。でも、勝
ったのはアマゾンだった。岩瀬氏は、他にも楽天とセブ
ンイレブンの例も出していた。


(4) 聞き手のニーズ
たぶん今回講演会を聞きにいた人の興味は、1.ネット生
保のビジネスモデル自体に興味がある、2.ネット生保の
立ち上げストーリーに興味がある、3.岩瀬氏自身に興味
がある、の3つだったと思う。
岩瀬氏はきちんとその3つの切り口に沿って話を準備さ
れていたし、それのどの切り口から話を聞いても面白か
った。聴衆の期待を知り、それに応える、普通であれば
一方的に自分の話したいことを話したりすると思うのだ
が、そういう点でも他のスピーカーとはスタイルが違っ
ていた。
(5) 投資家側にいた経験
投資家向けの説明ということで同じようにプレゼンをし
てくださったのだが、やはりそのプレゼンに迫力を持た
せることができたのは、岩瀬氏自身が投資家側にいたと
いう経験があったからだと思う。相手の立場に立つとい
うことを身をもって知っているということは大きなアド
バンテージになっていたはずだ。


(6) ライフネット生命保険
ひらたく言えば、「ネットでやることで人件費が下がる
ので、保険料が安くなる」なんていう捉え方をしていて
は何も学べない。
モノゴトを単純化して考えることは大切だ。でも、その
裏側にある本質を知ろうとしなければただのニュース記
事を読むのと同じだ。
ライフネット生命保険に関しては、生保ビジネスの仕組
みを知ること、情報過多のコンシューマーに対するマー
ケティングを作ること、そして面倒くさがりという顧客
の本質を捉えること、それらがあって初めて会社として
成り立っているということなのだ。表面上だけしか見な
ければ決して気付かないだろう。


(7) 出口氏
社長の出口氏については、正直、何も知らなかったので
岩瀬氏が退職間際の人を担ぎあげたんだろう、くらいに
しか考えていなかった。でも、それがどれだけ浅はかな
考えだったかということを思い知らされた。特に印象的
だったのが、岩瀬氏なしでも出口氏は会社を作ることは
できたという。でも、出口氏が会社は作れたけど、魅力
的な会社にはなってなかっただろう、ということを言っ
ていたことだ。プロフェッショナルとしてお互いを信頼
し合っているからこそ出てくる言葉だと強く感じた。こ
の話が今日の中では一番印象に残った。


【感想】
とにかく魅了された。普段であれば、講演の最中、周り
の人を観察したりする余裕があったのだが、今回に限っ
てはそんな余裕もなかった。また、決して話すスピード
が早いわけではないのだが、次々にポイントがとんで
くるために、聞く思考の息をつく暇がなかった。2時間
という時間だったが、聞くことに対してかなりの疲労
があった。それだけ集中していたというかさせられた、
ということだろう。この"プレゼンを聞く"というだけで
も十分価値があったと思う。そして自分の生き方を再度
考えるきっかけともなった。


それと自分の発想の乏しさを改めて思い知らされた。