ラダック

「ラダック 懐かしい未来」という本を読んだ。久々に
心に響く本だった。インド北部のチベット民族の村、ラ
ダックを研究していたスウェーデン人女性が書いた本だ
。1970年代前半まで、ラダックではサスティナブルな生
活と人々の幸福がそこにはあった。産業資本主義の視点
からみたら、超貧困層ともいえる生活ではあったが、ま
ったく犯罪などなく、人々が相互依存し、自然と一体に
なった生活があった。それが、1970年代後半から開発が
進むようになると、物質的には豊かになっていったもの
の、犯罪は増え、コミュニティは崩壊し、という現象が
明らかになっていった。その一連の様子を著者は、外か
らの視点ではなく、ラダックの視点として描いている。
そうした内容もさることながら、まさに彼女自身の経験
によって本を書いているところが心響いた理由だろう。
まさにそこには彼女の実体験そのものが描いてある。


「グローバルに考える」などと言うのであれば、絶対に
読まなければいけない一冊だと思う。


また、ラダックが変化する中で、特に若者が欧米の文化
に触れるたびに、いままで自信をもっていた自分たちの
生活がひどく貧しく、みすぼらしく見え、欧米の文化に
染まりたいと熱望するようになっていった。


この仮定は自分自身にもまったく当てはまることだと思
う。実家では祖父母が畑仕事をしていたが、そういうの
を友達に知られるのが正直イヤだった。だから、母親が
自分の家でとれた野菜で漬物を漬けるのなんかもイヤで
仕方なかった。中学生になると自分は将来はこんな田舎
ではなく、東京に行くんだ、と既に心に決めていた。そ
して実際に大学生になり、故郷を離れ東京に出た。


ラダックの本を読み、結局、自分自身もテレビの価値観
に染まっていただけ、というのがよくわかった。故郷の
素晴らしさなどにまったく目もくれようとしていなかっ
た。よく祖父母が「ここはいいところだ」と言っていた
が、子どもの頃(今でもそうだが)は、まったく理解でき
なかった。


今になって思うと、家の前のビニールハウスのワラの中
で遊んでいたのがひどく懐かしいと思う。故郷のために
できること、まだまだ遅くはないはずだ。