二十世紀予測

報知新聞(1901年1月2日)が、当時の科学者を動員して
、二十世紀の科学技術の展開予測をしている。そして
これを安倍内閣が設置したイノベーション25の中で
紹介されていた。そして一つ一つについて、100年経
過してから実現したかどうかを○、△、×で評価して
いる。


そこから何が言いたいかというのは、まぁ、おそらく
、そうやって想像したことは実現しているんだから、
そうやって未来を予測しようよ、みたいなスタンスで
紹介していたんだと思う。


以下、その内容だ。


(1) 無線電信及電話
マルコニー氏発明の無線電信は一層進歩して只だに電
信のみならず無線電話は世界諸国に連絡して東京に在
るものがロンドンニューヨークにある友人と自由に対
話することを得べし


→ ○ 携帯電話による国際電話


(2) 遠距離の写真
数十年の後欧州の天に戦雲暗澹たることあらん時東京
の新聞記者は編集局にゐながら電気力によりて其状況
を早取写真となすことを得べく而して其写真は天然色
を現象すべし


→ ○ カラー写真の電送


(3) 野獣の滅亡
アフリカの原野に到るも獅子虎鰐魚等の野獣を見るこ
と能はず彼等は僅に大都会の博物館に余命を継ぐべし


→ ×


(4) サハラ砂漠
サハラの大砂漠は漸次沃野に化し東半球の文明は漸々
支那日本及びアフリカに於て發達すべし


→ △ 砂漠の灌漑


(5) 七日間正解一周
十九世紀の末年に於て尠くとも八十日間を要したりし
世界一周は二十世紀末には七日を要すれば足ることな
るべくまた世界文明国の人民は男女を問はず必ず一回
以上世界漫遊をなすに至らむ


→ ○ 航空機の発達、海外旅行の一般化


(6) 空中軍艦空中砲台
チェッペリン式の空中船は大に発達して空中に軍艦漂
い空中に修羅場を現出すべく従って空中に砲台浮ぶの
奇觀を呈するに至らん


→ △ 爆撃機や戦闘機


(7) 蚊及蚤の滅亡
衛生事業進歩する結果、蚊及び蚤の類は漸次滅亡すべ



→ ×


(8) 暑寒知らず
新器械発明せられ暑寒を調和する為に適宜の空気を送
り出すことを得べしアフリカの進歩も此為なるべし


→ ○ エアコン


(9) 植物と電気
電気力を以て野菜を成長することを得べく而してそら
まめは橙大となり菊牡丹薔薇は緑黒等の花を開くもあ
るべく北寒帯のグリーンランドに熱帯の植物生長する
に至らん


→ ○ 人工光を使った室内栽培


(10) 人声十里に達す
伝声器の改良ありて十里の遠きを隔てたる男女互に婉
婉たる情話をなすことを得べし


→ ○ 電話


(11) 写真電話
電話口には対話者の肖像現出するの裝置あるべし


→ ○ テレビ電話・テレビ会議


(12) 買物便法
写真電話によりて遠距離にある品物を鑑定し且つ売買
の契約を整え其品物は地中鉄管の裝置によりて瞬時に
落手することを得ん


→ ○ 通信販売・ネットショッピング
→ △ 宅配便


(13) 電気の世界
薪炭石炭共に竭き電気之に代りて燃料となるべし


→ ○ 電気エネルギー


(14)
十九世紀末に發明せられし葉巻煙草形の機関車は大成
せられ列車は小家屋大にてあらゆる便利を備え乗客を
して旅中にあるの感無からしむべくただに冬期室内を
暖むるのみならず暑中には之に冷気を催すの裝置ある
べく而して速力は通常一分時に二マイル急行ならば一
時間百五十マイル以上を進行し東京神戸間は二時間半
を要しまた今日四日半を要するニューヨークサンフラ
ンシスコ間は一昼夜にて通ずべしまた動力は勿論石炭
を使用せざるを以て煤煙の汚水無くまた給水の為に停
車すること無かるべし


→ ○ 鉄道の高速化、快適性向上


(15) 市街鉄道
馬車鉄道及び鋼索鉄道の存在せしことは老人の昔話に
のみ残り電気車及び圧搾空気車も大改良を加えられて
車輪はゴム製となり且つ文明國の大都會文明国の大都
会にては街路上を去りて空中及び地中を走る


→ ○ 地下鉄、高架


(16) 鉄道の聯絡
航海の便利至らざる無きと共に鉄道は五大州(アメリ
カ大陸・ヨーロッパ大陸・アジア大陸・アフリカ大陸
オセアニア)を貫通して自由に通行するを得べし


→ ○ 海上交通の衰退
→ × 鉄道の五大陸貫通


(17) 暴風を防ぐ
気象上の観測術進歩して天災来らんとすることは一ヶ
月以前に予測するを得べく天災中の最も恐るべき暴風
起らんとすれば大砲を空中に放ちて変じて雨となすを
得べしされば二十世紀の後半期に至りては難船海嘯等
の変無かるべしまた地震の動揺は免れざるも家屋道路
の建築は能く其害を免るゝに適当なるべし


→ ×


(18) 人の身幹
運動術及び外科手術の効によりて人の身体は六尺(約
180cm)以上に達す


→ △ 体格の向上


(19) 医術の進歩
薬剤の飲用は止み電気針を以て苦痛無く局部に薬液を
注射しまた顕微鏡とエッキス光線の発達によりて病源
を摘発して之に応急の治療を施すこと自由なるべしま
た内科術の領分は十中八九まで外科術に移りて後には
結核の如きも肺臟を剔出して腐敗を防ぎバチルスを
殺すことを得べし而して切開術は電気によるを以て毫
も苦痛を與ふる与えること無し


→ ×


(20) 自動車の世界
馬車は廃せられ之に代ふるに自動車は廉価に購うこと
を得べくまた軍用にも自転車及び自動車を以て馬に代
ふることとなるべし従って馬なるものは僅かに好奇者
によりて飼養せらるゝに至るべし


→ ○ モータリゼーションの到来


(21) 人と獣との會話自在
獣語の研究進歩して小学校に獣語科あり人と犬猫猿と
は自由に対話することを得るに至り従って下女下男の
地位は多く犬によりて占められ犬が人の使に歩く世と
なるべし


→ ×


(22) 幼稚園の廃止
人智は遺伝によりて大に発達し且つ家庭に無教育の人
無きを以て幼稚園の用無く男女共に大学を卒業せざれ
ば一人前とみなされざるにいたらむ


→ ×


(23) 電気の輸送
当本(注=にほん)は琵琶湖の水を用ひ米国はナイヤ
ガラの瀑布によりて水力電気を起して各々其全国内に
輸送することとなる


→ ○(水力発電、電力網)


と、こんな感じ。


一方で面白いのが、同じ内容が松下電器産業の元副社
長である城坂俊吉氏はその著書「松下電器の技術運営
に関わって」の中でも紹介されていた。実際に氏が触
れている予測は、(14) 鉄道の速力、(15) 市街鉄
道、(17) 暴風を防ぐ、(19) 医術の進歩、(20) 自動
車の世界、(21) 人と獣との會話自在、(22) 幼稚園の
廃止、(23) 電気の輸送、である。


これらをもって、氏は次のように述べている。「この
予測結果もまた、当時としては精一杯の科学的予測で
あったと思うが、中には滑稽なもの、あるいは当時と
しては到し方なかったであろうと思われる予測も多く
見られる。改めて考えてみれば、こうした予測の誤り
は、いわば当然の結果であった。早い話が、十九世紀
とか二十世紀初期に当たって、二十世紀を予測してみ
たとしても、二十世紀中に次から次へと新しく生まれ
た全く想像もなし得なかった新発見・新技術が数多く
東條してくるわけである。十九世紀の前半頃までは、
まだそれほど多くの新発見や新技術の創造は現れてい
なかったが、十九世紀後半からは、さまざまな新技術
・新理論が飛び出すようになっていった。それが二十
世紀に入ると、さらに飛躍的な新しい理論・科学・技
術が誕生したわけであるから、二十世紀初頭に、正確
な百年後の未来予測ができるはずもなかったわけであ
る。こうした日進月歩に、絶えず新しい理論、科学、
技術が展開していく環境にあって、科学技術の将来展
開の予測をすること、また、それに関連する人類の未
来像、未来生活といったものまでを想定することは、
まずは不可能に近かったということである。


さて、要はイノベーション25の見解と城坂氏の見解
とはまったく別モノといえる。同じものを取り上げて
まったく別の見解をしているいい例だと思う。


ちなみに、僕としては、予測して実際に起こったこと
、予測して実際に起こらなかったこと、そして、予想
外に起こったこと、これらの切り口で考えてみる必要
があるように思う。